クリヨウジ

クリヨウジ

• "　1928年、福井県鯖江市に生まれた久里洋二は、上京し漫画家として活動を始めた。60年代から実験的なアニメーションを制作し、内外で高い評価を得る。ユーモアあふれる絵画やオブジェ、絵本なども発表し、日本を代表するマルチ・クリエーターとして活躍している。 　冷たいブルーの色調の中に月が浮かび、事物を怪しく照らし出す。花がかざられた質素な机に、どこからともなく現れた白猫は、何かを見据えながら微動だにしない。月光の魔力が時を凍りつかせる世界。そもそも、ここはどこなのか。背景は大海にも砂漠にも見える。形の狂った抽斗（ひきだし）の中に光るのは、打ち寄せる波だろうか。抽斗の中だけが危うく月明かりの呪いを逃れ、波だけが呼吸するように潮騒を響かせる。いや、冷たい光を浴びて、波ももう動きを止めようとしている。そうして世界は完全に息を止めた･･･。さまざまな物語が、観る者の胸に湧き上がる。 　ブルーとグラデーションによる、単純で機械的に見える色彩も、その配置が周到に計算されており、画面は単調にはならない。アクリル絵の具は刷毛跡を残さないように塗られるが、猫の体だけはマチエールが強調されて、毛並みと唯一の生き物の温かさを表している。作者の久里洋二は、誰もが知っている身近なモノや風景を巧みに組み合わせ、緻密に彩色を計画することで、不思議な未知の世界を創り出している。"

---

---