所蔵作品

名村定志

名村定志
  • " 名村定志の作風は、一言でいえば、シルエット表現である。グランド・キャニオンや桂林などの風景をモチーフにしながら、その光景はまるで時の停止した影絵のような世界を形作っている。こうした時の流れを超越した大自然のもつ実在が、淡い色調の中にうつろっている姿は、見るものを感傷的にする。名村の作品は1950年代の風景画が三点収蔵されている。この作品は1954年の日展に出品されたものであり、海に面した岩場をモチーフに、低くたれこめた雲には重々しい雰囲気が感じられるものの、名村独特のシャレた画面処理によって、軽快な作品となっているがすでに近年の作風に結びつく要素が見られる。それは福井に生まれ育った北陸人特有の色彩感覚なのかもしれない。  東京の生活が長くなったとはいえ、変わらない要素なのだろうか。名村氏の風景画にはスペインのグラナダや南仏のニースを描いたものもあるが、そうした明るい南方の風土をモチーフにしながらも色調は明るく晴れ渡ったものとはいいがたく何かが影を落としている。それがまた魅力ともなっている。  不思議なことに名村の絵には影がない。それは氏にとって存在そのものが影だからなのか。確かに現代絵画の出発点で、絵画の純粋性が叫ばれて、平面性の追求がなされ、影が画面から姿を消した。名村氏の追及もこうした流れの中にあって、画面の処理をしてきているわけだがやがて、対象の実在感が影のようにうすれていくことになる。新しい画風を探求し続けて、全く老いを感じさせない若々しい姿であり続けた。鈴木千久馬、堀田清治につづく、本県の洋画界の第一人者でありながら、名村は実に謙虚であり、しかも在野精神に生きている。それは土岡秀太郎らと共にはじめた北荘画会以来、根付いてきた精神でもある。"

1902-1989

ナムラサダシ

Sadashi NAMURA

O-94

イワ


制作年:1954
サイズ:129×161cm
技 法:油彩
材 質:キャンバス
形 状: