アントニ・タピエス
アントニ・タピエス
- " タピエスはスペインを代表する画家の一人である。生まれはバルセロナで、あらゆる点でこの街がタピエスの出発点となったことは間違いない。地中海に面した港町であるが、フランスにも近く、貿易だけでなく文化の中継点という意味も強い。内陸部にあるマドリッドなどにくらべて様々な文化が出入りする可能性も高く、新しい美術が誕生する風土といえる。街を歩けばガウディーの構想した奇妙な教会建築や公園に出くわすし、近代的な町かと思えば、少し裏通りに入りこむと、スペイン情緒を漂わせる雑然とした世界も見ることができる。ピカソが少年期をすごしたのも、そんな裏通りであり、現在美術館になっているピカソの家もそうした一画にある。
確かにバルセロナは芸術的な伝統があった。ガウディ・ピカソ・ミロ・ダリと脈々と続いている流れがあり、それらはともに前衛精神と反骨の魂に支えられたスペインの気質とも言え、ドンキホーテの見せる無鉄砲な一面もそれぞれに共通している。そしてタピエスもまたこうした中から生まれてきた。
彼は1923年に生まれ、少年期にスペイン内乱を体験してバルセロナ大学で法律を学ぶが、やがて画業を志して退学する。ダダの「反美学」の精神を持って製作を始めたのが1945年ころである。その後、ミロ・クレー・エルンストなどシュルレアリズムの影響下、幻想的作品を生み出し、一方で東洋の美術や哲学に刺激を受けヨガ、仏教、禅などの研究へと進む。それゆえ、彼の作品には一貫して神秘的な雰囲気が漂う。
「神秘主義と絶対的な霊的交渉をもつ必要」を強調し「芸術的感情は、神秘的感情に真に類似している」というタピエスが最近作では、ひも、布、木片、椅子、机など日常見慣れたモチーフを盛んに用いている。
しかしこの「椅子」という作品に見られるように、日常性はタピエスの思考の中で極めて形而上学的に扱われ、神秘主義の色彩を濃く示している。それは東洋の神秘と、中世カトリックのエクスタシーを喚起する神秘感がおり合さったような世界であり、一面では我々日本人が入っていきやすいが、途中までくると拒否されてしまうという二面性が強く感じられる。
確かに「椅子」の力強い黒の線は、東洋のカリグラフィーに違いないが背後の広大な風景を思わせるマニアックな描線はヨーロッパ独特の気質であろう。"
1923/12/23-2012/2/6
タピエス,アントニ
Antoni Tàpies
P-305
制作年:1981
サイズ:93×140cm
技 法:カーボランダム
材 質:紙
形 状: