松尾芭蕉
松尾芭蕉
- "「 印 」
加賀に入
わせのかやわけ入右は
ありそ海
おなじく山中の
涌湯にあそぶ
やまなかやきくは
たおらじゆの匂
この處十景有て
高瀬の漁火と云。其
ひとつなれば
いさり火にかじかや
波の下むせび
元禄二初秋
武陽芭蕉桃青
「印」「印」
各務支考「芭蕉加賀山中懐紙」極書とともに近年発見された資料。
元禄2年(1689)7月15日、越中高岡から加賀に入った芭蕉一行。「わせのかや」はその折に詠んだ句で、早稲の香りをかき分けるように加賀に入ろうとする、そのはるか右手には有磯海が青く広がっているとの感慨を記す。「ありそ海」は今の富山県高岡市の海岸。
「やまなかや」「いさり火に」の二句は、7月24日から8月4日までの山中温泉滞在中の作。「やまなかや」の意は、不老長寿の妙薬とされるあの山路の菊を手折らなくとも、この温泉の湯は霊験あらたかである。湯のよい香りが辺り一面に漂っていることよ。加賀での作句中、最も有名な一句として知られる。また「いさり火に」は、山中の高瀬では鰍(かじか)漁で漁火を焚くが、その川浪の下で鰍はさぞ鳴き声をおしころしていることだろう、の意。ただし『おくのほそ道』には収録されていない。
「芭蕉加賀山中懐紙」極書は「加賀山中懐紙」に付属する芭蕉門人各務支考の極め書きである。それによれば、本書は金沢の小春亭の所蔵であったこと記す。小春(しょうしゅん)は芭蕉が7月16日から23日まで滞在した旅館宮竹屋の一族。俳諧をたしなみ、芭蕉とも交流した。元禄14年(1701)に支考が金沢を訪れた際、小春亭で本書を目にし記念に書き残したもの。主人小春の人柄をしのばせる庭のたたずまいを賞し、芭蕉の風雅を解する人に出会った喜びを記している。
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寛永21年-元禄7年10月12日
マツオ バショウ
Basho MATSUO
C-17
加賀山中懐紙
「カガヤマナカ」カイシ
Poem by the Haiku Poet Basho MATSUO
制作年:1689
サイズ:30.8×47.4
技 法:紙本墨書
材 質:
形 状:軸装