渡辺新三郎
渡辺新三郎
- "謹啓
其後ハうちたえ天御無沙
汰尓うち過こし申譯無之候
春光改尓老いて日毎そひ
ゆく新樹の緑漸う夏近
う奈利候折柄貴臺尓盤
益々御清祥の御事と
大慶能至尓存し奉り候
扨何方も御同様と存し候へ
とも例能物資統制日尓々々
強化せられ候天容易尓
手尓入り可多きもの日一日
おほく奈利候に盤困り申候
もの(訂正:と)より常ならぬ國情これ
ハ止ミ可多き事な可ら
さりとて困り入り候事盤
事実尓天中尓も紙
類の缺乏著しき事
は小生等のやうに紙尓縁ある
生活い多し居候もの尓ハ大な
る打撃尓御座候小生も
目下家居(書道:挿入)自学の旁若
干の門人尓も稽古致し居
り候へとその人多ち能習字
用紙日尓々々質悪しく
相成り同封い多し候様の
黄色なりハま多゛よき方
尓て先程ハ藁半紙を
用ゐ居るさへ有之候程
尓御座候割合尓よき家
庭の人多数を占め居候事
とてはい原鳩居堂なと越
阿さ里て良き越手尓入連居
る可ま多゛〳〵少く御座候へと
これもいつまて續き候ハむ
すで尓三越など越始とし
百貨店などの紙ハ生ずき
だの石州だの申すハ一帖もな
く改良半紙も質劣り
厚さ減じて見る可げもな
きものば可里少々陳列し
阿る尓すぎず障子紙な
どは一本も無之候上秋尓ハ
只々四五(訂正:五六)十銭のものも一円
三四十銭と奈利て賣出さ
るゝならむなと申候尓誰も
生気なき有様尓御座候
花可゛みなとも昨今ハ餘
程前より頼み置き候ハでハ
手尓入り申さすまこと尓困
り居事尓御座候可゛之等
の諸紙お手許御在庫
品能端物の中尓て何と可
御分與願ハるゝもの無之
候也
折入って御願申上候
尚々今一つハ小生事此度
来年三月上旬の御一年祭迠
尓御印刷遊ハさるへき御豫
定尓て目下御編纂中の
竹田宮大妃昌子内親王殿下の
御歌集御浄書拜命致候尓
就てハま多゛詳細なる御打合
せも致さぬ事なれハその
御料紙如何様尓相成り候
もの尓や相分りかね候事
な可ら私自身としても
一応考へおく必要あらむ
と存し候事尓御座候可゛
美濃判生ずき様のもの尓
天色阿まり白可らず紙
面もあまり滑りすぎずさ
りとてラフ過ぎぬ良質
の和紙ハ無之もの尓候や
御歌数もま多゛相分らす随
ひ天御紙数の推定も困
難な可ら書損御控なとも
見つもり候天十帖(約五百枚カ)は
入用と存候単尓写真版の
版下と申す様ならハさほど御料
紙を厳選の要もなき可と
存し候へとこれハ原本を
宮家尓御秘蔵の御事
と拝し候尓依らハ宮家尓て
御差支のなき限りま多
よき紙の得られ候限り故里
の産紙尓てと存し候事
尓御座候就てハ何として
も貴臺能御力尓よるより
外なき事と存じ候早速
此状越草し候次第尓御座候
宮家より料紙の御相談未
だ無之中に大體要領
越得おきたくと存し候間
御多用中恐縮な可ら
貴見一寸御洩し頂かれ候ハヾ
辱く何とぞよろしく
御願申上候
先ハ右とり阿へ春゛御願迠
事餘貴答越待ち天
再び御願申上くへく候
早々
四月廾八日
渡邊新三郎
岩野平三郎様
"
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ワタナベ シンザブロウ
Shinzaburo WATANABE
C-38-760
渡辺新三郎書簡 物資窮乏の折柄料紙を求む 186‐2
Letter from Shinzaburo WATANABE
制作年:1941年4月28日
サイズ:巻紙18.2×209 和紙24.4×33.5 封筒20.5×8.2
技 法:紙本墨書
材 質:紙 墨
形 状:巻紙1 和紙1 封筒1