内藤堯雄
内藤堯雄
- " この作品は武生市出身の彫刻家内藤堯雄氏の制作したもので、昭和34年第24回新制作展に出品しその彫刻部門において秀作と認められ、新作家賞を受賞された木彫の力作である。
内藤は、元来仏像などの木彫をする仏師の家に生まれ、幼い頃から父について仏像に関する知識やその調法を学ぶなど、木彫に関する知・技を常に深めながら成長した。特に戦後の彫刻界は欧米から輸入される新しい素材と技法を駆使した作品が流行するといった風潮の中で、内藤氏は新しい時代に即した作風の木彫の作品を出品することに彫刻家としての生きがいを見出してきたのである。
「刻まれた記憶」はその意味で内藤氏の昭和34年代の意欲作ということができる。椅子に座り腕組みをして考え込むような姿の人物と、膝を立てて床に仰向けに寝そべる人物が、一対となっている。共に首をすくめたポーズの組み合わせは、まだ大人になりきれない青年期の悩みや、反抗異性的目覚めが作品の中に刻み込まれている。この作品を見ていると、杉の木目の素朴な肌合いを通して、作者の意図する素朴な生命観がかもし出されてくる。そして木に対する作者の情念がどことなく感じられる。
「刻まれた記憶」の素材は、江戸時代の彫刻史の上で特異な木彫の世界を築き上げた円空などの作品と共通する杉材が寄木風に構成されたもので制作されている。軟らかな杉の素材をノミやヤスリを使って削り・刻み・こするなどして独自の質感を生み出し、新しい彫刻の表現を創作しようとこころ見ているのである。そして「刻まれた記憶」に見られる素朴で粗い外観の作風全体からは作者の木に対する情念がノミやヤスリの痕跡となり、現代彫刻とは何かを問いかけているようである。
本県の彫刻史を顧みると数々の優品が、越前、若狭に遺存している。重要文化財に指定された木造、十一面観音(羽賀寺)薬師如来立像(多田寺)などの平安の名作をはじめ優品の数々が存在する。また中世の越前、大野出目の面工の逸材が輩出した地域でもある。その意味で福井は木彫の素材を最大限に活用する作家の輩出が期待されるのである。その意味でその作品は、今後の現代日本の彫刻界の新しい課題を背負った作品と考えてよいであろう。
内藤の作品は「刻まれた記憶」以降も木彫の世界を一貫して追究し続け、その技法の追及と同時に常にモチーフと呼ぶ作者の表現しようとする主題の選択についても苦心してきている。それは作家にとって最も重要な思想につながる課題なのである。内藤はこの点についても、極めて単純で何の変哲もない身辺に点在する土俗的内容のモチーフを選択して創作しているようである。
内藤は大正13年(1924年)武生市に生まれ、父雅雲に仏像の彫刻を学び、その後彫刻家雨田光平に師事して現代彫刻の道に入る。また同郷の詩人津田幸男と接し、芸術とは何か、彫刻家としての創作する魂についても諭された。そして第23回新制作展以来、同展を通じて新しい木彫の作品を現代彫刻界に問い続けた。"
1925-1993
ナイトウタカオ
Takao NAITO
S-11-1
制作年:1959
サイズ: H 94 H 35cm
技 法:
材 質:木
形 状:2点組