ホアン・ミロ
ホアン・ミロ
- " ホアン・ミロは1983年マジョルカ島パルマの自宅で90歳の天寿を全うした。「イメージの画家」と呼ばれる独自の世界を作り上げ、二十世紀を代表する巨匠としての一生であった。星、鳥、女、 太陽・・・等をテーマに純粋な発想と宇宙的な感覚で創造したミロ芸術は、二十一世紀へのメッセージともなりうるすばらしい夢と幻想の世界である。
当美術館が所蔵する「二人の友だち」は1969年に製作された版画作品である。抽象作品ではあるが、その豊な色彩と形は、見るものに独特の世界とイメージを開いてくれる。ここには現実のユーモラスな表情がうまく描かれており「二人の友だち」という題も、何かしら暗示的である。画面左側の男性的要素と右側の女性的要素がぶつかり合い、その間に押しつぶされたような人間の顔が見られる。さらにその下にハシゴのような記号が置かれ、二要素の橋渡しとしての役目をしている。
ミロの作品には、ハシゴや星など単純な記号がしばしば登場するが、それは原始時代の石壁に彫りこまれた洞穴壁画にも似て、宇宙的な広がりをわれわれに伝える。いわば宇宙のメッセージとさえ思えるのである。この頃に製作された版画作品のタイトルを見てみると
「沼地の天体」(1967) 「岩壁の軌跡」(1967) 「迷宮の天体」(1967)
「灼ける太陽」(1969) 「太陽の崇拝者」(1969) など宇宙的イメージのものが多い。
そして一方には1969年頃に「間抜けな女」 「囚われた女」 「海の前の祖母」 「魔女」など女性像をテーマにした作品群がある。
しかし、両者に決定的な違いがあるかといえば、その抽象的形態が人物に見えるか否かのことぐらいで大差はないのである。つまりミロにとっては宇宙と女性とはともに同一のイメージの中にあり、常に行き来のできる世界であった。
ハシゴは確かに、天に登ろうとするヤコブの夢を象徴するものに違いないが、「二人の友だち」においては狭い挿入口を探索する精子の存在にも似ている。大宇宙に向かう壮大なイメージが、顕微鏡の見るミクロの世界と同一視されているのである。ミロが好んで描くアメーバーのような生物体は、この混沌とした世界の代表選手のように思えるのである。ミロは確かに銀河系宇宙を顕微鏡でのぞきえた人物だったのだ。"
1893-1983
ミロ,ホアン
Joan Miro
P-54
制作年:1969
サイズ:72×107cm
技 法:エッチング、アクアチント、カーボランダム
材 質:紙
形 状: