所蔵作品

安田靫彦

安田靫彦
  • " 東京に生まれ、10代で大観や春草の作品を見て感激し画家を志した安田靫彦は、後に岡倉天心の薫陶を受け、天心没後には再興院展に経営者同人の一人として参加するなど、大観、春草、観山の後を継ぐ画家と期待されるようになった。歴史画を得意とし、有職故実と古典の研究に専心しながら、中国や日本の歴史、神話などに取材した作品を次々と発表し、日本画界をリードする画家として名声を確立した。昭和23年には文化勲章受章。また法隆寺金堂壁画の模写事業を監修したり、財団法人となった日本美術院の初代理事長を務めるなど、重要な文化事業や職務にも係った。  大正年間は病気のため制作が思うように進まなかった靫彦は、昭和に入って制作も生活も安定するようになる。そして昭和10年代には最盛期を迎え、昭和16年には靫彦の芸術の最高峰と言われる《黄瀬川の陣》を発表する。本作品はその2年前に再興第26回院展で発表された作品で、彼の画業の最盛期の一作である。  八衢とは道がいくつにも分かれたところを意味しており、「天孫降臨」の神話に取材した本作では、雲の上の八衢にいる猿田彦神(さるたひこのかみ)という巨神と、それと相対しながら大胆にも胸を露わにして問答する天鈿女命(あめのうずめのみこと)とを描いている。"

1884-1978

ヤスダユキヒコ

Yukihiko YASUDA

J-295

天之八衢

アメノヤチマタ


制作年:1939
サイズ:94.7×127.3cm
技 法:紙本著色
材 質:
形 状:


胸をあらわに決然とした表情の女神と、逞しい肉体に槍を構えた男神が、金色の雲海の上で対峙している。これは古事記・日本書紀の天孫降臨の場面を題材にしたもので、1939(昭和14)年の再興第26回院展に出品された。歴史画に定評のある安田靫彦(1884-1978)による、流麗な線描と豊かな色彩を堪能できる一品である。
 本作の元となるのは、靫彦や横山大観ら当時一流の画家によって制作された「肇国(ちょうこく)創業絵巻」である。絵巻では、靫彦は多くの武装した神々を登場させ、男女の神は挿話的存在に留めている。女神も襟に手を掛けただけで、大胆な表現を避けているのは、やはり、絵巻が宮家への献上品であったからなのだろう。
 しかし、靫彦の心にはこの時から、男女の神の問答に焦点を絞り、自由に描きたいという思いが芽生えていたのだろう。本作『天之八衢』の発表は、それから数ヶ月後のことであった。