所蔵作品

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J-475

犬追物図屏風

イヌオウモノズビョウブ


制作年:17th C.
サイズ:134.0×314.6
技 法:
材 質:紙本金地着彩
形 状:屏風装


"犬追物は、疾走する犬を馬上から射て当たった数を競う競技で、流鏑馬・笠懸とならび「馬上三物」と呼ばれ、武士の弓馬術鍛錬の武技として鎌倉時代以降盛んに行なわれた。 その様子を描いた犬追物図屏風は現在10点以上が知られる。最も有名なものに狩野山楽作品(文化庁)があるが、こうした画題は古くは土佐派が手掛けたものであった。原本は存在しないが室町時代の土佐光茂や弟子の光吉の作品が記録されており、そのうち光吉(1539~1613)の作品は、縄で囲った円の中の犬を射る「縄の犬」と、縄から出た犬を射る「外の犬」を一隻の画面に同時に描き、それを春(左隻)と秋(右隻)で1双としたものであった(東京藝術大学「探幽縮図」)。この光吉作品をもとに描かれたと考えられるものに、京都大学総合博物館本(6曲1隻・春)と尼崎教育委員会本(6曲1隻・秋)がある。 春の犬追物を描いた新出の本図もこの光吉系の作品で、県内個人宅に長く所蔵され、ほとんど公開されることのなかった作品である。記録所の建物を右端に置き、柵で囲まれた馬場の右半分に外の犬、左に縄の犬を描き、その周囲に見物の群集を配する画面構成は京都大学の作品とほぼ同じで、両者が共通の祖本をもとに制作されたことを示している。 くわえて本図の人物描写や金雲の紋様・形態、紙継などが、尼崎教育委員会本と共通することも、本図の位置付けを考える点で極めて注目される。そこからこの二つの作品は本来一双として制作されたと考えられ、探幽縮図と一部図様に違いがあるものの、光吉系犬追物図屏風としては当初の形態を残す唯一の例といえる。鮮やかな色彩による細やかな風俗描写は光吉作品に通じるが、一方で面貌表現には隔たりが認められることから、自ずとその制作もやや時代の降るものと考えられる。 画面の傷みが惜しまれるものの、本図は尼崎本とともに光吉作品の姿を伝えるものとして、また犬追物図屏風の展開を考察する上で極めて大きな価値を有する。"