ジョルジュ・ルオー
ジョルジュ・ルオー
- " ジョルジュ・ルオーの代表的な版画の一点で175部の限定作品である。ルオーは近代の画家の中でも特に宗教性の強い画家として知られ、キリストやマリアを主題に様々な人物像を描いている。しかしそれらは、必ずしも神聖なものといえず、極めて庶民性の強いある意味ではアクの強い個性豊な人物なのである。サーカスや娼婦をテーマに人間の俗悪の世界を見つめようとする精神性がこの画家の特徴となっていた。
しかしルオーの生涯の中でだんだんと娼婦の姿は消えてゆく。それに代わって裸婦がしばしば登場し造形性がそれまでの精神性に入れ替わる。フォルムの力強さ、アラベスクのように配された姿態、裸体群像が形造るある一定の調和、そうしたものが中期以降のルオーの作品の特色となった。そしてまた人体の美しさに魅せられたのも、晩年であった。それに比べ初期のルオーの描く裸体はグロテスクでもある。「秋」という題名が示すようにそれは実りを意味する。つまり円熟ということである。1937年以来ルオーはしばしば自己の作品に「秋」という題を与えている。それはちょうどその年にルオーが人生の秋に入ったことと対応している。秋という観念で、心の安らぎを象徴してるかのように重厚な調和に満ちた作品である。
この作品の裸婦のとるいくつかのポーズはセザンヌの水浴図を思わせるものがある。「女たちのフォルムを丘の曲線に一致させること」というセザンヌの言葉がここでも聞こえてくるようだ。裸婦とともに、風景が重要な要素としてやがて、画面に入ってくる。そこでルオーは、裸体や風景の諸要素をまるで建築物でも建てるかのように組み立ててゆく。確かに、ルオーはマチスやキュビストたちよりも早く、セザンヌの水浴の女に由来している。
フランソワ・シャポンは、自然というテーマに触れて次のように語った。
「自然以上に自然であるこの自然、キリスト教徒の心も情熱を証言するためその本質を明らかにして見せる役割を持った自然、ルオーはその自然の意味を直接にとらえるための手段を、当時の彼の{版画}の中に見出した。その手段とは、自然を写すのではなくて書くためであり、うつろいやすい肉体、逸話、動きの中から永遠の姿を明らかにする豊な表現を描き出して来るためのものである。そこでは、{形態と色調とのある種の対照}や、彼がその版画作品において好んで{多様な調和のなかに繰り広げて見せる}豊麗で陶酔を誘う{あらゆる種類の色彩}が、それだけでも十分ひとつの世界となる光景を模倣し繰り返そうとするのではなく、その光景が芸術家の上に投げかける反映を形態の世界に移し、その印象を物質的なものに定着し、記号と色彩の連続の中に永遠化しようとしている」
確かに「秋」にはこうした、自然の自然たる所以、豊で実りの多い大地の表情を伝えるものである。"
1871-1958
ルオー,ジョルジュ
Georges ROUAULT
P-292
制作年:1938頃
サイズ:50.3×65.2cm
技 法:シュガーアクアチント
材 質:紙
形 状: